力まずに歌うために知っておきたい呼吸法
- 歌うときにいつも力んでいる
- 歌うとすぐに首が痛くなってしまう
- 長い時間声を出すことが出来ない
- どうしても締め付けられたような声になってしまう…
歌う際にこのような悩みを抱える人は少なくありません。
このような悩みの多くが必要以上に力が入ってしまう「力み(余分な力)」が引き起こすものです。
もちろん、歌うという行為はとてもパワーを必要とするものですが、「必要な力」と「余分な力」をきちんと分けて考えることで、解決の糸口が見つかります。
今回は余分な力となりうる「呼吸時の力み」について考え、力まずに歌うための呼吸法とトレーニング方法をご紹介します。
どうやって人は息を吸っている?
いきなりですが、人間が息を吸うとき、空気はどこに入るでしょうか?
おそらく皆さん、すぐに「肺」だと答えることでしょう。
はい、正解です。
(肺だけに…)
では、次の問題です。
なぜ「肺」に空気が入るのでしょうか?
この質問にはおそらく悩んでしまう方が多いのではないかと思います。
身体の中にモーターが入っていて、掃除機のように吸い込んでいる……。
そんなはずはありませんよね。
人の身体は「気圧の差」を生み出して空気を取り込んでいるのです。
どういうことなのか、じっくりと見ていきましょう。
ポイントは気圧差
山の上や飛行機の機内にお菓子の袋を持ち込むと、膨張して広がりますよね。
これは、袋の中の気圧と周りの気圧の差による現象です。
袋の中の気圧は、地上と同じ気圧。
それに対して高所の気圧は低いため、気圧の高いところから低いところへと空気は動こうとします。
結果、内側から外側へ向かって広がるように袋が広がるわけです。
肺の中でもこれと同じようなことが起きています。
肺が広がると、肺の中にある空気の量に対して空間が広がるため、肺の中の気圧が下がっていきます。
身体の外側と内側で気圧の差が生じるため、身体の外(高気圧)から、肺(低気圧)へと自然と空気が移動していきます。
息を吐くときはその反対です。
肺が圧縮されることによって、肺の中の気圧が上昇します。
身体の外側に比べて、内側の気圧が高い状態になれば、やはり、肺(高気圧)から、身体の外(低気圧)へと空気が動いていきます。
昔ながらの足踏み式空気入れを思い出すと分かりやすいかもしれません。
足で押すと空気入れ(肺)が圧縮され、外側に空気が吐き出されます。
逆に足を離すと空気入れ(肺が)膨張して、内側に空気が入ってきます。
気圧を操作するためには、肺の体積を物理的に変える必要があります。
当たり前ですが、空気は直接持って押し出したり引っ張ったり出来るものではありません。
呼吸に対して「息を直接操作するようなイメージ」を持っている方は、まずその考え方を少し変えてみてください。
肺は「ただの袋」であり、動くのはその周り
少し乱暴な言い方にはなりますが、「肺」はただの袋であり、それ自体が自分の力で広がったり、萎んだりすることは出来ません。
ですが、なんらかの力により胸腔(きょうくう=胸の空間)の拡大・縮小が起こることで、肺も動かされています。
では、「何らかの力」とは何か。
それは筋肉の力です。
胸腔は左右に12本ずつある肋骨によって形作られており、前鋸筋(ぜんきょきん)、肋間筋(ろっかんきん)など、さまざまな筋肉がその周りに存在していますが、呼吸のために共通するのは「胸腔が広がるのを邪魔しないこと」です。
胸腔が広がるためには、肋骨は広がり、持ち上がるように動く必要があります。
自分の肋骨を上から下まで全て触りながら、骨が動くのを感じてみてください。
骨が動くときに、息もまた同時に入ってくるのがわかるはずです。
息を吸うことには役立たない“力”
そして、もうひとつ意識してほしいこと。
それは、首には「息を吸うために直接働く筋肉」が存在しないということです。
声を出す時に力んでしまう人の中には、「息を吸う時点」で首が頑張り始めてしまう人がいます。
鏡で息を吸う自分の姿を見た時に首が筋張っていたら、それは余計な力が入っている証拠です。
息を吸う時点で入ってしまった余計な力が、声を出す段階になって抜けることはまずありません。
結果、その余計な力は更に自分の首、声を締め付けていきます。
呼吸のために必要なのは、肺が物理的に動くこと。
そして、物理的な肺の動きに首は直接影響を与えられません。
首はあくまでも空気の通り道であって、呼吸に関して何かすることはないのです。
呼吸のトレーニング
大切なことなので繰り返します。
「呼吸は物理的な胸腔の動きによって達成される」
「首は呼吸に直接影響を与えない」
この2点をしっかり抑えつつ、実際に力まないための呼吸法をトレーニングしてみましょう。
吸わないで、胸を広げる
このトレーニングは「息を吸おうとしない」ことが大切なポイントです。
大抵、頑張って息を吸わなくては、と思ってこれまで練習を積んできた人は、「頑張る」の範囲に首も入ってしまっています。
かといって、力を抜いてと言われて簡単に抜けるのならこんな簡単な話はありません。
ということで、考え方を少し変えてみましょう。
「息は吸わない。ただ胸を広げるように動かすだけ」
これを唱えながら、実際に胸を広げるように動かしてみましょう。
「息を吸おう」とは絶対に考えないようにします。
それでも、胸が広がれば勝手に息は入ってきてしまいます。
(「息が入ってこないようにする」必要はありません。)
反対に、息を止めたら胸は絶対に広げられない、ということも試して実感してみましょう。
吸わないで、腹部を広げる
同じように腹部でも試してみましょう。
考え方は同じです。
息は吸おうとせず、お腹だけ出したりへこませたりしてみましょう。
これでも息が勝手に出たり入ったりするのがわかると思います。
いまいち腹部を動かして吸う感覚がわからないという方は、仰向けに寝てみると簡単だと思います。
腹式呼吸、と呼ばれる動きがこれに当たります。
吸わないで、身体を広げる
さて、胸を広げても、腹部を広げても息は動きます。
これを両方ともやってみましょう。これが最大に息を取り込む呼吸の仕方です。
もちろん、息を吸おうとしてはいけません。
慣れてきたら、この呼吸で歌ってみましょう。
歌い始めのフレーズはゆっくり準備が出来るのですぐに出来ると思いますが、慣れるまでは息継ぎのときに「吸おう」としてしまうと思います。
首に力が入ったり、余計なことをしているのがわかったらそれをやめましょう。
ただ、身体を広げるだけです。
慣れないうちはフレーズ毎に止まって、ゆっくり身体を広げる時間を作っても構いません。
吸った満足感がないので、これで歌えるのかと不安になると思いますが、きちんと身体が広がっていれば想像以上に余裕が感じられます。
むしろこれで首の力が抜けた場合は、これまで歌えなかったフレーズにも余裕が出てくるでしょう。
さいごに
今回は力んでしまうときに見直したい呼吸法と、その練習方法についてご紹介しました。
ただ、歌うときの呼吸で、常に胸部も腹部も限界まで広げる必要はありません。
歌う際に必要な息の量は、「次に歌うフレーズをちょうど歌い切れる量」です。
吸う前には息を吐かなくてはいけませんので、息を余らせてしまうと、次のフレーズのために息を入れる時に支障が出ます。
吸いすぎても力みになるし、吸い足りなければ歌い切れません。
ただ、「100%」を伸ばすために訓練をする価値はあります。
楽に、正確に取り込める息の量が増えれば、それだけフレーズの長い箇所も歌えるようになります。
呼吸の当たり前を見直すのは根気のいる練習ですが、必ずあなたの歌に良い影響をもたらしてくれることでしょう。
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