ゼロから始めるアドリブの弾き方
ギターがある程度弾けるようになってくると、多くの人がアドリブ演奏に興味を持つようになります。
一方で「コード進行」や「スケール」といった音楽理論寄りの言葉も出てくるため、「アドリブは難しい」と拒否反応を示す人もいます。
この記事では「アドリブとは何か?」という基本から、アドリブが弾けるようになるための練習方法などを、できるだけ難しい用語を使わず「自分にもできる」と思ってもらえるように解説していきます。
オンライン専門のギタースクール
当サイトを運営するTHE POCKETは開校14年、日本で最初のオンライン専門ギタースクールです。
プロの講師陣によるマンツーマンレッスンだから、あなたのペースで確実に上達できます
アドリブとは?
アドリブ演奏という言葉を、その本質が伝わりやすいように言い換えると「音楽を使ったおしゃべり」になるのではないでしょうか。
普段私たちは様々なシチュエーションでおしゃべりをしています。
その場の状況を判断し、相手からの問いかけに対して適切な答えを自分の中で見つけ出し、言葉として発しています。
言葉がキャッチボールとしてやり取りされることで、おしゃべりが成立していきます。
コンビニの店員さんとレジで交わす定型文のような会話もあれば、友人同士で際限なく盛り上がるおしゃべり、家族との何気ないおしゃべり、仕事上の大切な意思決定を行うための会話、誰かに自分の思いや考えを伝えるためのスピーチのようなおしゃべり。
私たちが普段何気なく交わしているおしゃべりや会話にもたくさんのパターンがあるように、「音楽を使ったおしゃべり」にもたくさんのパターンがあります。
言葉をこれから覚えようとする幼児や、外国語の勉強を始めたばかりの方がその言語で、いきなり難しい議論などできるはずがありません。
これからアドリブを学んでいこうとする人は「新しい言語を覚えるんだ」という意識で、日常会話に使える簡単な単語や短い文章から覚えていきましょう。
アドリブの第一歩は状況を把握すること
「おはよう」は朝の挨拶です。
この挨拶を英語で言うと「Good morning」、イタリア語では「Buongiorno」、スペイン語では「Buenos días」となります。
言葉の場合、単語自体は言語により異なりますが、それらが利用される「状況」は同じです。
その日の朝はじめて顔を合わせた人同士が交わす言葉が「おはよう」であり、「Good morning」なのです。
新しい言語を覚える目的は、その国の人々と会話をして意思疎通を図ることなので、毎日出くわす様々な状況に応じて、使える言葉をたくさん覚えておく必要があります。
音楽でも同じように「状況」が存在しており、その「状況」は「コード進行」によって作られています。
私たちの日常生活には、挨拶や意思確認、議論、同意などなど膨大な種類の「状況」がありますが、音楽にはそれほど多くの「状況(コード進行)」はありません。
そのため、覚えるべき「状況(コード進行)」はそれほど多くないのですが、ひとつの「状況」に対して使える言葉は無数に存在しています。
朝の挨拶という「状況」で使える言い回しが、単純なものから複雑なものまで無数にあるのです。
こう聞くと「やっぱりアドリブは大変」と感じるかもしれませんが、いきなり膨大な言い回しを覚える必要はありません。
とりあえずは、「朝の挨拶」という状況で使える言葉を一つ覚えておくだけで、音楽でのおしゃべりはスタートできるのです。
アドリブはゼロから生み出すものではない?
どんな状況であっても、おしゃべりの基になっているのは「単語」であり、それらを組み合わせた「文章」を作ることによって、おしゃべりに楽しさや広がりが出てきます。
「単語」を知らずしておしゃべりを楽しむことはできません。
音楽でも「単語」に当たるものがあり、「フレーズ」と呼ばれています。
フレーズは組み合わせることで、文章のようにより多くの感情を伝えることができます。
一流の演奏家のアドリブ演奏を聞いていると、次々と新しいフレーズが生み出されているように聞こえます。
しかし、細かく分析していくとそれぞれのフレーズはその場で生み出されたものではなく、その演奏家がそれまでに自分の中に蓄えてきた「フレーズ(単語)」の集合体だということがわかります。
私たちが外国語を勉強する時、英語であればまず「ABCD〜」のアルファベットを覚えて、次に簡単な単語とその意味、次に単語を数個組み合わせた短い文章、というような順番で覚えます。
音楽のアドリブも同じようなもので、アルファベットに当たるものが「スケール」、単語が「フレーズ」、そのフレーズを組み合わせた「ギターソロ」のような順番で覚えていきます。
このようにして覚えたフレーズや組み合わせ方などを、どんな状況でもすぐに弾けるように練習を重ねることで、ゼロから生み出しているようなアドリブ演奏も可能になります。
アドリブの練習方法
ここまでは言葉でのおしゃべりとアドリブ演奏を照らし合わせながら、全体像を理解をしてきました。
ここからは具体的なアドリブの練習方法になりますが、外国語を覚えるのと同じ流れで練習していきましょう。
スケールを覚える
先ほど、英語のアルファベットに当たるものが「スケール」であると出てきました。
まずはこのスケールを覚えていきたいのですが、「スケール」にはたくさんの種類があります。
メジャースケール、ペンタトニックスケール、マイナースケール、ハーモニック・マイナースケールなどなど他にもたくさんの種類がありますが、それぞれ使える「状況(コード進行)」が異なります。
いろいろな「状況(コード進行)」で使えるスケールもあれば、ごく限られた「状況(コード進行)」でしか使えないスケールもあります。
まずはたくさんの状況で使えるスケールから覚えるのが得策です。
世の中の半数以上の曲で使える「メジャースケール」
ロックやブルースと相性抜群の「マイナーペンタトニックスケール」
ギターでアドリブを覚えていく場合、この2つのスケールから入ることが一般的です。
それぞれのスケールについては、以下の記事で弾き方や意味を解説しています。
ギターをはじめた方が必ず目にする「スケール」という言葉。 メジャースケール、ペンタトニックスケールなどたくさんの種類があり、何から覚えればいいのか、違いは何なのか、どんな役に立つのか分からない事だらけだと思います。 この記事では、ギターを弾くうえで必ず知っておいてほしい4つのスケールの意味と...
ギターでいちばん大切なスケールは「ペンタトニックスケール」ではないでしょうか? 多くの名フレーズや名曲がペンタトニックスケールを元に作られており、ギターを弾く上で避けて通ることができないスケールです。 ペンタトニックスケールの響きはロックやブルースの根っこになっていると同時に、ギターの指板上...
フレーズを覚える
単語に当たる「フレーズ」を覚えるには、誰かの「フレーズ」をコピーするのが効果的です。
好きなアーティストの曲をコピーする時、普段は「ソロ」全体をひとつの塊として覚えているかもしれませんが、1小節や場合によってはもっと短い単位に分解して覚えることで、それぞれが「フレーズ」になってきます。
「落とし物を拾ってくれて、ありがとう」
と言う長めのフレーズで覚えるよりも、
「ありがとう」
と言う短いフレーズとして覚えておくことで使える場面が増えます。
使える状況を把握する
覚えたフレーズがどのような「状況(コード進行)」で使えるものなのか把握しておくことも大切です。
そのためには、フレーズがどのスケールで作られているか、どのようなコード進行で使われていたかまで分析する必要がありますが、そのためにはある程度の音楽理論の知識が必要になります。
アドリブのために音楽理論を1から勉強しようとすると、かなりハードルが高くなってしまうので、ここではキーについての基礎だけでも理解しておきましょう。
こちらの記事ではキーについての概略を解説しています。
「キー」を変えたらどうなる? カラオケに行って、「この曲高いからキー下げよう」って言葉を聞いた事や言った事あると思います。 この言葉は「この曲高いから調を下げよう」と言っても同じ意味です。 「キー」と「調」は同じ意味です。 昔、音楽の授業で聴いた事ありますよね。 で、「この曲高...
アドリブの練習にブルースが使われることがよくありますが、これはブルースが3つのコードだけでできており、使われるスケールもほとんどの場合でペンタトニックスケールに限られているからです。
ブルースで覚えたフレーズは、同じ状況(ブルース)であればとりあえずは使えるという、応用のしやすさがあります
ブルースに興味がある方には、こちらの記事がおすすめです。
ギターを練習していると、早い段階で「ブルース」という言葉に出会います。 ブルースは多くの現代音楽のルーツとなっており、ギターを練習するうえで避けて通ることができない存在だからです。 この記事では、ギター初心者の方に向けてブルースの基本から、ブルースの雰囲気を味わえるフレーズの弾き方までご紹介...
状況に合わせて使えるようにする
「状況」はコード進行のことだと解説してきましたが、実際に弾こうとするとリズムも関係してきます。
アドリブ演奏は他の楽器の伴奏の上で成り立つものなので、伴奏に合わせて覚えたフレーズを弾く練習をします。
ブルースのフレーズを覚えたのであれば、ブルースの伴奏に合わせてタイミングよく弾けるように練習するのですが、最近はYouTubeで膨大な数のバッキングトラック(アドリブ練習用のカラオケみたいなもの)が公開されているので「blues backing track」と検索してお気に入りのトラックを探してみましょう。
例えばこちらのバッキングトラックで、次のようなフレーズをタイミングよく弾けるように練習します。
このフレーズはAmペンタトニックスケールで出来たフレーズで、バッキングトラックはキーAのブルースです。
まずは2つのフレーズをバッキングトラックに合わせてタイミングよく弾く練習をします。
この時、①のフレーズを弾く→1小節休む→②のフレーズを弾く→1小節休むのように余白を作りながら練習しましょう。
慣れてきたらそれぞれのフレーズの最後の音を伸ばす、休符部分で知っている他のフレーズを弾くなど、少しずつアレンジしていきます。
まとめ
アドリブは「音楽を使ったおしゃべり」であると解説してきました。
おしゃべりをするためには、単語の意味や使える状況を覚え、それぞれの「状況」に合わせて単語を組み合わせた文章にして、気持ちや感情を伝えます。
音楽でもコード進行や他の楽器の演奏、曲の雰囲気、演奏のシチュエーションなど「状況」に合わせて、「フレーズ」を組み合わせながら演奏者の感情などを表現していきます。
音楽ではこの「会話」という部分がとても大切にされているのですが、難しい部分でもあり多くの人がつまづいてしまうポイントです。
アドリブを習得していく過程では、どうしてもスケールやコード進行など理論的な部分に意識の大半が向けられてしまいますが、本来の目的は音楽を通した「会話」であるということを忘れないでください。
音楽を使ったおしゃべりで、もっと音楽を楽しみましょう。